2011年8月14日日曜日

記憶の再生産〜カフェという場所〜

 あるカフェから眺める藤棚とプールが鎌倉を訪れる楽しみのひとつとなっています。

 鎌倉駅から西に三分ほど歩くと木造二階屋をリノベーションしたギャラリーヨコがあり、その並びには軒の低さと深さの特異な印象のスターバックス御成町店が位置しています。フクちゃんでお馴染みの漫画家・横山隆一氏の住まいとアトリエがあった場所に、遺族の想い出を残すため保存プロジェクトが起こりました。結果、このスターバックスとギャラリーヨコが生まれ、ふたつの建物に守られる形で藤棚とプールのある小さな庭が公となったそうです。

 設計はこのプロジェクトのために組織されたコトペースという建築デザインチームが行っています。庭に対して軒を下げることで伸びやかなプロポーションをもたせ、軒の出により光の陰影による効果を与え、杉の縁甲板で室内外の軒裏を統一させることで大屋根に包まれる安心感を生み出し、軒先のハイサイドライトから見通せる御成山への借景により街の中での存在を確認できます。

 初めてなのになぜか懐かしい居心地を感じさせてくれたり、いつ来ていつ立ち去っても気兼ねのない公園のようだったりするのがカフェという場所かもしれません。横山家の庭には、良質なカフェがもつ空気感を品格として備えた魅力的な隣人が数多く訪れたことでしょう。
 その記憶が個人の中で薄れていくものだとしても、別の用途や目的で利用されていくのだとしても、場所が自身のもつ可能性を最大限に生かされていくならば、上質な空気感が人々に提供され共感され続けていくのかもしれません。

2011年8月8日月曜日

佐々木敏光〜デザイン=生活〜


 6ヶ月になる我が子のためにと椅子を探していたところ、自分の子に使わせたい家具として佐々木敏光氏がデザインした子供椅子、New BAMBINI が目に留まりました。肘掛けと脚がひとつながりの弧をえがき、それが90度回転することで遊具としての木馬へと変化します。
 
 この椅子を子供の目から眺めたなら、たまたま食事の時に腰掛けるものが椅子とよばれているだけだということに気付かされます。ダイニングテーブルだって宿題をそこですれば勉強机ですし、ソファだってゴロンと横になったまま眠り込んでしまい朝を迎えたならベッドと呼んでもよいのかもしれません。
 
 ひとつの使い勝手に限定されずに、まずそこにある生活を受けとめられるのかが、よい家具の条件のひとつでしょう。モノにどれだけの力があるか、が佐々木氏のものづくりの信条と聞きます。多面的で変化に富んだ生活に向き合いながら、デザイナーという立場からの視点だけでなく、我が子の家具という使い手からの目線があった時初めて、モノが主役として振る舞うことを可能とするダイナミックで活動的な生が育まれるのではないでしょうか。

 デザインという言葉が氾濫している昨今、デザイン⇒生活でも生活⇒デザインでもなくあくまでデザイン=生活という地平を佐々木氏は見据えていたようです。