2011年9月9日金曜日

幻の美術館~清春芸術村と谷口吉郎~

 同人誌・白樺のなかで「いくら小さくても気持ちのいい、本物のわかる人が見て喜んでくれる美術館を建てたく思う・・」と綴ったのは武者野小路実篤です。それに共感した吉井長三氏により実現された美術館が山梨の長坂にあります。
 
 そこは清春芸術村と呼ばれ、著名なデザイナーによりいくつかの美術館・アトリエ・図書館などの文化施設が建設されています。谷口吉生・吉田五十八・安藤忠雄・藤森照信といったスター建築家による建物をより魅力的に見せる基本設計は谷口吉郎氏と聞きます。
 
 敷地は廃校になった木造の小学校があった比較的小高い場所です。そのためか、建物の配置は元の校庭らしき広場に並ぶ群と、少し段差をつけた校舎跡に並ぶ群とに分かれます。前者はそれぞれの建物に序列がなく彫刻を並べるように配置され、後者は建築計画的に建物の関係性を意識した配置となっています。校庭での遊びのルールは子供たちの自主性にまかせ、教室では模範となる規律を示しているとでもいえましょうか。
 
 谷口吉郎氏が遺した意図は、学校という場が持つ空間構成とそこで営まれる社会活動を抽出することであったように感じられます。空間とアクティビティとの相関関係を客観的に描写することで、芸術村自体がひとつの学校、ひとつの美術館、ひとつの社会と見立てる視線を獲得できるかもしれません。その先に、社会そのものが自立した美を体現する個人や組織の集合体にいつかなりうるという希求がこめられているようにも思えるのです。

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