御用邸に近い旧高松宮邸跡には,神奈川県立近代美術館 葉山が建設されています。南西の一色海岸から北の三ヶ岡山に向けて広がるL字形のオープンスペースに面したこの美術館で、60年の歴史ならではの「現代美術の展開」というコレクション展が10/2まで開催されています。
海外作品による企画展が震災により困難となりその代わりの展示ではありましたが、今あるこの現状から何が発見できるのか、主催者側鑑賞者側の双方が問われることとなり、場所と歴史を内省させる静かながらも骨太な内容でした。
中でもアブラハム・デイヴィッド・クリスチャンによる、「Alle Erde 全地」をテーマとした作品群は秀逸な印象を与えてくれます。紙と鉛筆と土、素朴な材料を使いながらも、精神の核心まで世界の手応えを届けようとする彫刻やドローイングの試みは、ニューヨーク、デュッセルドルフ、葉山を創作の場としている作者ならではの場所に対する鋭敏な感性を伝えてくれます。葉山という土地に根ざしたからこそ成立したかに感じられるこの美のかたちが、もし別の場所に展示されていたならどんな風に受け止められるのでしょうか。
‘世界’と呼んでみても、そこに万人がある共通のイメージを抱くことは少なくなってきている時代かもしれません。それでもかろうじて身近に触れ共感しやすい土や紙を使いながら、単純明快な美を彼は構成しているかに見えます。
Alle Erdeの中のひとつ’アフリカは世界である’と題されたオイルスティックと紙によるシンプルで力強い筆跡からは、たまたまわたしたちがいるこの場所から世界は地続きなんだという、当たり前といえば当たり前の、決してお仕着せではない驚きが伝わってくるのです。
0 件のコメント:
コメントを投稿