2011年7月3日日曜日

長谷寺~あじさいの秘密~


 たまたま横浜に住んでいたころに紹介された美容院が鎌倉にあり、この度あじさいの時期というのもあって、そのついでに鎌倉の長谷寺を訪れることになりました。
 
 私の生まれた奈良にもあじさいで有名な矢田寺というのがあります。それぞれの土地であじさいの名所があるのかもしれませんが、私にとってはあじさいといえば矢田寺でしょう、と普段は無意識でいるようでもついつい花をもたせたくなるのが故郷のようです。しかし帰り道には、長谷寺かぁどんな程度のものなのかねと感じていたのもおぼろげになるぐらいに貴重な体験ができました。
 
 鎌倉は海と山に隣接した街並みが特徴ですが、長谷寺はそれらが一望できる観音山の裾野から中腹にかけて境内が続いています。切り立った斜面沿いに散策路が設けられているため、目線をあげたり下げたりしなくとも自ずと視界には丁寧に配置された植木が目に留まりやすくなっています。
 そこから次第に視線は斜面を見上げたり見下ろしたりすることになるのですが、今まで経路沿いのアイレベルでみていた花々がその時、狭められた視角のなかで奥行き方向へ同時に見通せることになります。
 さらに、斜面に植えられた2500株のあじさいは標高の低いものほど気温が高いため枯れ始めており、上位のものほど生き生きとしています。その様が傾斜面を雪崩のごとく一挙に目に飛び込んできます。
 そこには遠い近いの距離感覚だけでなく、時間の遠近感、つまり懐かしさや予感といった感覚を刺激する仕掛けが込められているようです。走馬灯と呼ばれる体験が私はありませんが、この身体感覚はおそらくそれに近いものではないでしょうか。
 
 時間は不可逆なものとされていますが、果たしてそうなのでしょうか?私たちは住まいの設計を通じて、日常に潜んでいる身体感覚の可能性を最大限に活用しながら、時間の不可思議さの秘密を少しづつ紐解くことで、いつか家そのものがタイムマシンに変化していくことを期待しています。

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